大人になると、オーガニックなアイテムに助けられることが増える。安らぎを求めているときには癒されるような自然な香りが、肌が乾くときにはしっとり潤うスキンケア製品が救世主だ。どちらにも共通するのは、望む人に魅力的であるよう、自然から抽出した要素を巧みにブレンドし整えているということ。自然界の植物から引き出した力をブレンドすることで、さらに人にフィットさせていくのだ。
手をかけた土からつくった畑を耕し、花やハーブを丹精込めて育てる。そして、それらが持つ力を丁寧に引き出す。そのオーガニックなエッセンスを美しい布にたとえるなら、スキンケアの用途に合わせてブレンドすることは、着心地よい服にするべく考えられたデザインやカッティング、確かな縫製技術にあたるだろう。これはオーガニックコスメをつくる上での大事な工程であり、研究を経て生まれた、ジュリークならではのブレンド技術でもある。
オーストラリア南部アデレードにあるジュリーク農園は、1985年の創業当初から、バイオダイナミック無農薬有機農法で育てたハーブや花を収穫し、独自の工程を経て、自然の成分からさまざまなスキンケアアイテムを生み出している。では実際に、どんな人が、どんな技術を駆使しているのだろう。農園の中にあるという、秘密の建物をのぞいてみよう。
いい香りが年中無休。
収穫したハーブと
花をケアする秘密の建物
ジュリーク農園のことは、農園の責任者であるCherie Hutchinsonさんに尋ねるべし。日々収穫される花やハーブは、どんなふうに商品になっていくのだろう。その工程、少し詳しく教えて欲しい。
「手摘みで収穫されるハーブや花は、農園内の畑のすぐそばにある、ドライイングシェッドという2階建ての建物に運ばれます。ここはいわゆる植物の乾燥小屋です。2階でハーブを乾燥させ、1階でブレンドを行います。乾燥は植物ごとに決められた温度や湿度で行いますが、ちょうど6月は乾燥ハーブを作るのに適した時期。北半球の日本では初夏ですが、オーストラリアでは冬のはじまりで、空気も乾燥するからです。この建物からは365日いつもいい香りが漂っていて、はじめて農園を訪ねた人は、近くを通るとあまりにいい香りがするのでみなさん驚かれます。というのも、美しく咲く花には見ごろの時期があるように、植物にはそれ自体の持つエネルギーがピークになる時期があるのです。それを見極め、最もパワフルなタイミングで花やハーブを収穫するので、この建物内で植物を乾燥させると、香りも最高潮に引き出されるからです」
写真や映像などで見る乾燥の様子は、日本の茶摘みの工程にとてもよく似ている。 「摘みたての植物は、専用の網を張った木製トレーに丁寧に広げます。優しく、なるべく植物が傷つかないように注意が必要です。また、ほとんどの植物にとって最適な乾燥温度は36度ですが、マシュマローやエキナセアなどの根菜類は、さらに高い45度が必要です。乾燥設備の電源は建物の屋上のソーラーパネルを使用し、ここで必要な電気を作ります。その電気で暖房や除湿をおこない、さらに空気がよどまないよう扇風機で空気を循環させています。建物内で使うエネルギーも、この自然環境が持続可能であるように自給自足が基本です」
唯一の冬の花、スイートバイオレット。
ハーブにも新茶がある!?
ところで素朴な疑問だが、冬の時期にも咲く花はあるのだろうか。 「唯一冬に咲く花はスイートバイオレット。名前のとおり甘い香りのするスミレの一種です。このエキス*¹は敏感な肌のバランス*²を整えたりうるおいを与え、やわらかくするような効果もあります。スイートバイオレットを収穫するときは、みんな花の前にひざまずいて半日かけて摘むのですが、それがまるで動物が植物を食べる動作によく似ているため、花に負担をかけず、自然に再生を促すと考えられています。そのほか冬にはカモミールやデイジー、パンジーなどを植えはじめ、春ごろまでに摘んで乾燥を終えます。また農園のハーブ類には、最初に摘んだ柔らかい芽はハーブティーに使用するというルールがあります。このハーブティーは、農園を訪れたお客さまだけに特別に提供しています。二番目以降に摘むハーブは、乾燥後用途別にブレンドします。このジュリーク特有のブレンド方法を、バイオダイナミックブレンドと呼びます」
新芽はお茶にするなんて、まるで日本の新茶のよう。きっとやさしい香りのハーブティーなんだろうな。淹れたてのお茶、飲んでみたい!
*¹ニオイスミレ花/葉エキス 整肌成分 *²肌の油分、水分バランスのこと
元シェフや看護師が担う、
ハーブや花の抽出リーダー
丁寧な乾燥のあとは、いよいよジュリークオリジナルのバイオダイナミックブレンドの工程だ。「ブレンドの仕事は、アイテムの効果と直結するので責任重大です。 オイルスキン、ノーマルスキン、ドライスキン、センシティブスキンといった肌の特徴別に花やハーブなどの配合バランスを調整するため、長年研究を重ねていく中で生まれた厳然としたレシピがあります。 1種類のハーブだけを配合するのではなく、複数種類を合わせることで複合的な相乗効果を発揮させることを目指しているのです。なによりもまず、ブレンダーは材料やレシピの内容をよく理解し、そのレシピに基づいた仕事の正確さが要求されます。ちなみにこれまでの抽出リーダー(パートプロダクツメーカー)は、元シェフや元看護師といった人たち。そして現在のリーダーは、化粧品作りの現場で原料の調合に携わっていたという経歴の持ち主。このようにジュリークのブレンドを担う者は、花やハーブを専門的に理解し、かつ正確な仕事ぶりが要求されるのです」
ブレンドのレシピは40種類以上。
まるで食べられるスキンアイテム
オリジナルのハーブや花のブレンドレシピは、一体何種類ぐらいあるのだろう。
「ブレンドのレシピは40種類以上あります。 たとえばオイリースキンのバランス調整には、収れん効果や洗浄効果を持つ製品を作る植物群が重要とされ、ごぼう(バーダック)、デイジー、エキナセア、レモンバーム、ローズマリーといった花やハーブがグルーピングされています。さらにこれらを補佐する成分として、水に浸したアーモンドやオートミールなどを入れる場合もあります。そのように、さまざまな肌タイプや効果別にレシピが作られています」
知れば知るほど、ジュリークのオーガニックコスメは食べもののようにも感じられる。ブレンダーは、もはや花やハーブを使ったスキンケアコスメの料理人と言えるだろう。しっかりと丁寧に育てられた植物をスキンケアコスメの料理人が確かな腕でブレンドする。そしてこのブレンドのあとに、さらに蒸留してエッセンシャルオイルを抽出し、そこで残った植物の残滓もなお有効活用するのだが、この先の工程は次回以降にご紹介しようと思う。自然のエッセンスを無駄なくとことんまで使い切る精神は、どこまでも〈もったいない精神〉を発揮した、文字通り自然に還元する製法を貫いている。ジュリークのスタッフと、いつか〈もったいない〉精神についても語り合ってみたい。